「カリフォルニアから来た娘」という病気

今日はとある病気の話です。

 

「カリフォルニアから来た娘症候群(The Daughter from California Syndrome)」

 

なかなかご機嫌な名前ですが・・・

決して他人事な話ではないのです。

 

 

とある患者さん(高齢)がおられるとします。

難病をかかえて長い間闘病生活を続けてきました。

10年・20年と時日は流れ、病気は少しづつ進行しました。

お医者さんも看護師さんも手を尽くしました。

同居のご家族も昼も夜もなく介護しました。

みんなみんな頑張ったのです。

でも、もう助けられそうにありません。

お医者さんは言いました。

「これまで頑張って来られましたが、もう限界です」

「これから先は延命治療になります」

「延命しますか?それとも自然の流れに任せますか?」

 

ご家族は悩みます。

「もう十分じゃないか」

「いや一日でも長く生きて欲しい」

若かりし日、患者さん本人が、良いお父さん、良いお母さんであればあるほど・・・

ご家族は悩みます。

悩んでいる間も時間は流れ、病状は進行します。

日々の現実と向き合うなかで、ご家族は覚悟を決めていきます。

死が避けられないのなら・・・穏やかな旅立ちにして欲しい。

と、決断するご家族は多いです。

 

そして、遠方に住むご親族に連絡を取るのです。

「もうすぐ死んじゃいそうだから、会いに来てあげて」

 

連絡を受けた娘さん、もしくは息子さんは仕事の段取りをつけて、久しぶりの帰省です。

「お父さんに会うのは何年ぶりかな・・・」

 

 

「カリフォルニアから来た娘症候群」は、この久しぶりに帰省する方に発症します。

 

 

久しぶりに会うお父さん。

とんでもない弱り具合です。

5年前はこうじゃなかった・・・。

過去の元気だったイメージと、ベットに横たわる現実のギャップが埋められません。

普段は面倒を見ていない後ろめたさもあります。

驚き・悲しみ・やり場のない怒り・・・

そんな感情がごちゃまぜになって、娘さんは主張しはじめます。

 

「何やってるの。あなた達。こんなひどい状態にして」

「できることをやりなさいよ!」

 

かくして、涙を流しながら覚悟を決めてきた同居ご家族の方針はひっくり返され、延命治療が行われることになりました。

お腹に穴があけられ、喉に穴があけられ、ベッドの上で暮らすことになったのです。

 

遠方から来た娘さんは、満足そうです。

私は、病気の親をほったらかしにする酷い娘じゃない。

私は、親の命を救った親孝行な娘。

満足そうに帰っていきます。

 

この一連の行動を「カリフォルニアから来た娘症候群」といいます。

つまり、患者の終末期に故郷を長く離れていた家族が突然現れ、これまで同居家族が長い時間をかけて決定してきた方針に異議を唱えたり、過度な延命治療を要求する。

という事象のことです。

 

遠方から来た娘さんは満足そうに帰って行きましたが

問題はその後です。

 

ベッドから動けなくなった高齢者の認知機能が急激に低下します。

すぐに言葉も忘れてしまいます。

同居の家族には、オムツ交換・痰の吸引・手足のマッサージ等々

昼も夜もない膨大な介護が待っています。

 

誰もが悪意を持たず、善意で行動しているにも関わらず、本人や周囲が苦しむのです。

 

私はならない?いやいや。

人間だれしもが陥る心理状態なんです。

僕もなりました。

僕の親族もなりました。

正義と思って行動するので、なかなか攻撃的になります。

そして長きにわたって親族同士で心にしこりを残すのです。

誰も幸せにならない、この症候群。

介護者が自分の想いを遠方の親族に説明し、画像や動画で情報共有をしておくことで防げます。

 

僕もあなたも、いつか親を看取り、そして自分が看取られるわけです。

そんな時に、大事な家族が傷つけあわないように「カリフォルニアから来た娘症候群」

知っていて欲しいと思います。

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コメント: 2
  • #1

    ザグザグケアプラン吉備津 古元みどり (月曜日, 30 10月 2023 16:32)

    先生、ありがとうございました。とても参考になりました。私もケアマネジャーとして現在、このような娘さんの対応に悩んでいるところでした。画像や動画で情報共有しておくことも大事だと学ばせていただきました。本当にありがとうございました。

  • #2

    院長 (月曜日, 30 10月 2023 20:11)

    コメントありがとうございます。
    もう誰しもがなっちゃう心理状態ですので、ホント他人事じゃないです。
    一旦なっちゃうと修正が効かないので、予防がめちゃくちゃ大事です。
    報告書で~書面で~とか媒体にとらわれず、情報共有すすめちゃいましょう。
    DX時代ですし。
    今後ともよろしくお願いいたします。